老舗理美容ハサミメーカーが人手不足対応と海外展開で将来の経営基盤をつくる
北米への海外展開に挑戦する老舗理美容鋏メーカー。「海外展開」に加え、「将来へ向けた人手不足対応・ダイバーシティ」「広報活動の強化」など将来に向けた経営の基盤整備に取組み、着実な成果を残していく。
まだ先代社長の頃にコーディネーター(以下CO)が同社を訪問したのが始まりだった。その時点では、「北米への海外展開を本格的に検討したい」という相談を受けた。その後、2016年の社長交代を機に、新社長である相談者が人手不足対応や国内売上拡大、広報・情報発信などについて当拠点に相談いただくようになり、現在では同社の経営企画・管理部門の顧問的な役割を果たしている。「ものづくり・品質」を第一に考えながらも、積極的に新しい取り組みにも注力しており、①米国への海外展開 ②将来を見据えた人手不足対応・ダイバーシティ ③広報活動の強化に取り組んでいる。
米国展開についての課題を解決するため、まずは理美容ハサミの市場を本格調査・分析し、本格的な海外展開の計画が必要であることを確認した。同社の理美容ハサミは販売価格7万円以上の高級品カテゴリーであるが、アメリカの美容師は「安い道具を使い捨てる」という考え方が根強く、高級な日本製理美容ハサミは易々とは受け入れられ難い。ただ、市場としては安価なハサミを求める美容師が多いが、高級サロンの美容師を中心に「良い道具を長く使いたい」というユーザ需要は相当数いるはずであると考えた。
次に将来を見据えた人手不足対応についてである。社員の高齢化が進んでおり、平均年齢は45歳。熟練工員には出来るだけ長く働いてもらうにしても、持続的発展を考えれば社員の若返りは必要であった。そこで慎重に採用計画を立案していくことになった。
3つ目の課題は、広報活動の強化である。従来の販売はOEM依存度が高く、自社ブランドでの販売は全体の30%程度であった。しかし将来的には自社ブランドでの販売を伸ばすことを目指しており、自社のブランド力、知名度を上げていくことが課題である。今後はもっと多くの美容師に直接同社製品の素晴らしさを知ってもらう努力をする必要があった。
中小機構の「海外ビジネス戦略推進支援事業」申請書を担当COと作成後、正式に申請を行い、2016年5月無事に採択された。採択後、中小機構の海外展開専門家から支援を受け海外戦略の策定から取り組み、2016年11月に米国を対象に市場調査を実施。現地の美容室の訪問、現地で活動している日本人美容師、代理店候補を訪問し、大変実りあるものとなった。とくにエンドユーザー調査では「高級サロンを中心にいい道具を長く使いたいというユーザーニーズが相当数ある」という仮説の裏付けができた。
また採用については求人チラシを作成し、和歌山市の工業高校、ジョブカフェなどへ訪問。同時にWebサイト、SNSを中心に「職人を募集するものづくり企業」を前面にPRした。結果として計8名の応募があり、その中から新卒者採用を決定することになった。
広報活動の強化については、ミラサポ専門家派遣を活用、海外展開やユニークな販路開拓などテーマ毎にプレスリリースを発表。自社のヒストリーや新しい取り組みなど、社内に眠っている広報ネタについても多くの気づきが得られたという。
それぞれの成果は有益だという。現在米商社との取引は、市場調査後も2回米国へ出張の上商談を重ね、現在では少量ながら毎月継続的に受注するに至っている。今後も在米商社と定期的に商談を行い、3年後の目標数量800丁達成に向けて、積極的に取り組んでいく。求人については計画的に取り組んだことで、8名の応募があり今春から女性の新卒採用を職人として採用する結果に繋がった。現在、COと相談しながら入社後の教育体制・社内環境づくりを進めている。広報活動については、海外展開等をテーマに3度地元紙「わかやま新報」に記事が掲載されるなどの一定の成果を上げているという。