生産農家とピアノ部品メーカーがスプーンを共同開発
農家を営む傍ら、季節のジャムを作り販売していた相談者。イベント等に出店するものの、知名度の低さから伸び悩んでいた売上げ。自社のコンセプトや屋号を活かし地場産業であるピアノ部品メーカーと、ジャム専用スプーンを開発し販路拡大に挑む。
当拠点が、磐田市産業政策課とタイアップした事業者支援「磐田版おせっかい」※の一環としてメロン農家を営む傍ら、廃棄される農作物等も活用しジャムを製造する相談者を訪問。その際に販路先の拡大や今後の経営戦略、商品開発の相談があった。
※磐田市では、地域経済の活性化を目的に、やる気ある市内中小企業の問題解決に向けた「おせっかい」事業を行っている。市職員が市内中小企業等を訪問し、課題やニーズを伺い、静岡県よろず支援拠点をはじめとする専門家と徹底的なおせっかいをし、課題解決のお手伝いをしている。
相談者は、季節の果実でジャムを製造することを得意としており、生産農家のこだわりと愛情が詰まった素材の魅力を四季折々で提供していた。イベント等へ出店しているが、知名度が低いため思うように販路が拡大できていない状況であった。
ヒアリングをしたコーディネーター(以下CO)は、自社のコンセプト「スプーンいっぱいのしあわせ」や屋号「さじかげん」を活かした新たな取組みにトライすることが、現状を打破するきっかけになると分析した。
具体的に提案したのは、「さじかげん」ジャム専用のスプーンと季節のジャムのギフトセットを開発すること。スプーンは「楽器製造が盛んな静岡県西部地区の音楽の町としての豊かさを発信するツール」として、「さじかげん」のジャムは「農業王国ふじのくにの農作物のおいしさと種類の豊富さも発信できるツール」となるようアドバイスをした。
ジャム専用スプーンの企画についてはCOのネットワークを活用し、地場産業であるピアノ部品メーカーとの橋渡しを行なった。
この提案を受けた相談者は、販促ツールとして、自社の社名「さじかげん」にちなんだ音スプーン開発をピアノ部品製造メーカーである鈴春工業株式会社(以下同社)に企画提案。
同社では、ピアノ部品の製造という高い技術力と今までのノウハウを活かし、機能性やデザイン性にこだわり、製品開発を行った。試行錯誤を繰り返した結果、ピアノ部品の製造工程で生じるブナの木の端材が、音符の形をしたスプーンとして生まれ変わった。
出来上がったジャムとスプーンのギフトセットは、市のサポートも受け、浜松市楽器博物館内ミュージアムショップへの売り込みも行った。
同社は、「受注商品を依頼どおりに製造するという従来の仕事ではなく、自社の技術力から商品の企画開発が可能であるということが分かった。今後の新規事業としての可能性の扉を開くことができた」と振り返る。
スプーン単体での販売も可能とし「neiro(音色)」という商品名で、浜松市楽器博物館ミュージアムショップで販売をスタートした。新聞記事の掲載やTV局の取材が追い風となり、販売目標を一週間20本程度で設定したが、結果一回の仕入ロット(50本)を販売することができ、現在新たな販路も開拓中である。
相談者は、COの提案を受け、お茶や野菜を活用した新たな製品にもチャレンジした他、県内の魅力的な農産物をつくる生産者とのマッチングも行った。
結果、「さじかげん」と商品開発で提携したいとの引き合いがあるなど、相乗効果を生んでいる。
「個人経営では考えに煮詰まるようなことも、よろず支援拠点に相談することにより自分自身の方向性の見直しや事業の棚卸をすることができた。この商品は相談なくしてはこの世に生まれなかったもの」と相談者。現在も当拠点でサポートを続けており、今後の更なる成長が期待されている。