価格転嫁に必要な情報整理と営業交渉支援
主要取引先Y社の会社分割に伴い、取引先はY社子会社となり、営業的な交渉はY社という関係となった。人件費や電力費の高騰に伴い、一昨年から価格交渉を行ってきたが、「コスト上昇分は役員報酬から出すように」と言われ、成果が上がらない状態であった。公正取引委員会に相談後、静岡県よろず支援拠点を紹介いただいたため、相談者から当拠点に相談があった。
現状は、取引先Y社子会社の100%依存状況。値上げ交渉は親会社のY社と交渉せざるを得ない状況で、交渉相手も直接的な決裁権者ではなく、課長クラスが窓口となっているため、意思疎通や情報共有が難しい状況であった。従って、交渉においてはより精緻な情報提供が必要と分析した。その上で、月別出荷実績、製品1個当たりの時間コスト、決算書、製品の工程表の4つの資料を元に、①値上げ後の価格で利益を生み出す自助努力、②値上げしたことで、得意先に何らかのメリットが生まれるような経営努力と説明努力、③継続的に社内の原価を把握する体制構築、④継続的に取引先と関係強化する営業努力など、4つの課題の把握に努めた。
よろず支援拠点として、①原価計算を実施し、見積書における加工費、販売管理費、目標営業利益それぞれの乖離箇所を認識すること、②下請け業者間で差別化するために、存在感を継続的にアピールする営業努力をすること、③前回の交渉時に実施した経営努力(自助努力リスト)を整理し、交渉相手に説明可能な場をセッティングすること、④見積書提示の際の取引先交渉に向けた模擬演習を実施し、交渉準備のMECEを確認すること、などの解決策を提言した。
製品別の値上げ交渉が完了し、全体を通し20.45%の値上げが完了した。金額にして、前年同様の納品数を受注したと仮定した場合、520万の売上高、利益の増加となる予定で、赤字から黒字転換する目途が立った。
価格交渉においては、原価計算以外の最低賃金データや、電力費のデータは交渉相手も持っている。従って、価格転嫁の必要性について、経営者自身も論理的に説明可能なレベルまで、見積書の細かな数値の根拠を積み上げ、説明できるように準備していくことが必要である。また、取引先も冷静に下請け企業を把握、分析しており、値上げ要請を拒否することで、品質低下や経営危機になることまでは望んでいない。その上で、自社においても、選ばれているのか、自社の強みは何なのかを正確に把握し、値上げ後に競合他社に売上が奪われることが無いよう十分に配慮する必要がある。実際に、価格交渉は経営者が先頭に立って実施することをおすすめする。それが、取引先に本気度をどれだけ伝えるかという意味でも重要である。最後に、あくまで目的は、価格転嫁後の「継続安定取引」であるため、アフターフォローとして、経営努力のPRや、綿密なコミュニケーションが必要と考えている。
よろず支援拠点の魅力は、無料で何回でも課題解決に向けて専門的な話をできることです。たくさんの専門家が在籍しており、各課題に対しての問題解決力は大きいと感じました。特に具体的な価格交渉材料の作り方や、着眼点の指導は一人ではできなかったと思います。