商品にどのように価値を持たせるか、それを知っていただくか
山のツル科植物を使ってかご作りをする相談者は、抱えた在庫と後継者の育成に悩んでいた。相談の中で、自分の作りたいものを製作していた現状が明らかになり、選ばれる存在になるべくブランディングと商品の改良に着手する。
約10年前、東京日本橋にある島根県のアンテナショップでの販売を機に、近隣の有名デパートでの展示即売会の紹介を受け、販路拡大の足がかりをつかむことができた。模倣されるなどの影響で、その後、売上げは伸び悩んでいたが、当拠点のチラシを見て、抱えた在庫と後継者を育成したいという課題を解決したいと思い相談に来訪した。
相談者は、ツヅラフジでバック、オブジェ、バスケット、花入れなどを製作していたが、特徴、価格、販売形態などが、消費者からは区分されていなかった。自身の作りたいものを製作していたというのが、正直な状態だったという。そこでどのような製品が顧客に受け入れられるか、どの製品を主力とすべきかをコーディネーターとともに検討。同時に、製作時間に見合った価格設定の必要性も検討した。
まずはじめに、当拠点の実施機関でもあるしまね産業振興財団の職員と首都圏での販路開拓の可能性について協議を行った。その結果から、知財総合支援窓口とも連携し、専門家にブランディングについての相談をすることを提案。知財総合支援窓口の専門家派遣を利用し、デザインの専門家に全製作品を見てもらい、多種の作品の中から、バッグが顧客に受け入れられる市場環境にあるとの助言を得た。これによりバッグの改良を目指した。素材の蔓の端部の処理と、中に入れたものが見えないよう、内袋を付けるなど、商品に改良を加えていった。また、今後の販売にも利用できる展示即売会用のリーフレットの作成を提案。全国的な有名デパートの広島店での1週間の展示即売会の機会を得て、「ツヅラフジで製作したバッグ」の約14万円(9個)の売上げにつながったという。5か月後、2度目の展示即売会で約24万円(14個)を売上げた。後継者の問題は、製作品の販売が軌道に乗り、事業としてのめどが立てば希望者も出てくるという考えから、まずは現販路拡大を優先させることとした。
蔓の端部の処理は「バッグの内側へ編み込む」工夫で解決した。また、高級感を感じる布製の内袋を作製した。製品の特徴や製品への思いを魅力的な文章にし、今回相談した専門家の助言でリーフレットを完成させ、商品の魅力を効果的に伝えることに成功した。訴求ポイントは、材料のツヅラフジを自身で山深く立ち入って採取していること。その材料は一本一本同一の形状に加工したものではなく、自然のままの形状を活かして、編み込む技術で仕上げていることを記載するよう助言を行った。
相談者はもの作りの道を歩みはじめて30数年とのこと。販路の開拓を本気で考えるべき時が来たと思いはじめていたとき、当拠点の存在を知ったという。相談者は当初、相談はとても勇気のいることで、訪問することを少々戸惑っていた。しかし「まずはこの一歩を踏み出すことから!」と大きな決断をした。最初に相談に向かった際は、とても快く相談に乗ってもらえたと感じたそうで、さまざまな専門家の方を紹介した。その甲斐あって、販路開拓の第一歩を確実に進めることができた。
とはいえ、まだまだ目標の経営状態までは程遠い。今後益々充実を図ることで、夢の実現に近づきたいと考えている。今回は、販売可能性の高い女性用バックに絞ってブラッシュアップを提案したが、販路先に応じてデザイン、PRの仕方を検討するようにも同時に提案を行った。また、デザイナーブランドの専門家のアドバイスも受け、具体的に製作品の改良も考えていった。商品に製作元を識別するタグを革製で作成し、「Pacha」または「Chizuru」の焼印をいれて取付けるようにしてもらった。