製法へのこだわりと生産効率を両立 料理酒開発で売上90%増に成功
県内の酒屋を中心に日本酒を販売していたが、人口減少・高齢化を背景に、酒屋の数も減少。 失った売上げを取り戻すため、新たに開発したこだわりの料理酒が全国で注目を集め、人気商品へと成長した。
代表者:青砥 幹彦(あおと みきひこ)
住 所::島根県安来市広瀬町布部1164-4
相談者である現在の社長は、4代目。株式会社設立以降、機械製造から昔ながらの手作り製法に原点回帰した。従来からの販売先である酒屋は島根県の人口減少と高齢化によりかなり減少していたことから同社の伝統と製法を強みにして、今後、どのように売上げを拡大していくべきか考えあぐねていた。当初は、新商品のデザイン等の商標について、島根県知財総合支援窓口の担当者にかねてから相談していたが、さらに、新商品開発・販路拡大についてアドバイスを求めたところ、当拠点を紹介され相談に至った。
対応したチーフコーディネーター(以下CCO)が、同社の歴史や経営方針、製造方法、商品の特徴、顧客層などに対するヒアリングを実施。その中で、同社が採用している「木槽(きふね)搾り」という昔ながらの製法を採用している酒蔵は全国でも数少ないことが判明。CCOは同社の大きな強みになると判断した。反面、小型タンクを使用するため生産効率が下がるというデメリットもあった。そこで、生産効率を上げつつ、同社の強みをアピールすることで販路拡大を狙えると分析した。
あわせて、全商品のパッケージデザインに統一感とコンセプトがないことも問題点として浮上。商品開発、パッケージデザイン等、一体的に改善が必要であると判断された。
昔ながらの製法のなかでも、木槽搾りよりも生産効率の高い「五段仕込み」を採用した新商品の開発を提案。料理酒の醸造を行う、親交のあった同業者の事業を引継ぐ打診があったこと、同社の製法による新商品を取り扱いたいという県外の販売先から打診があったことから新商品は料理酒に絞り込んだ。「食の安全」を求める昨今の流行を意識し、生産者の顔が見える島根県産特別栽培米の使用を勧めた。デザインについては、知財総合支援窓口が派遣した専門家がアドバイスした。商品開発には、地域中小企業応援ファンド事業の活用も提案。
相談者は、同ファンド事業の申請書の作成方法について当拠点からアドバイスを受けたことで、助成金も活用でき、新商品とあわせて商品ラベルと同社のロゴマークも完成させた。
80日かけて醸す五段仕込みの料理酒の開発に成功。日本酒のような芳醇な香りが料理を引き立てるのが特徴だ。
パッケージにもこだわってデザイナーに発注したことが奏功し、小売店の棚に並んだ時に消費者の目をひく個性的な商品にすることができた。酒蔵がつくる本格的な料理酒をアピールポイントとして全国に販売し、同社の売上げは支援を開始してから2年間で約90%増加した。
さらに昔ながらの五段仕込みの製造方法と高付加価値商品(オーガニック)のコンセプトが県外の酒造・食品卸会社から注目され、前期決算では、売上げの県外割合が80%にまで拡大した。
「具体的なアドバイスと幅広いサポートのもとで、日本酒づくりのノウハウを活かした料理酒を完成することができた」と語る相談者は、売上回復も果たし、老舗酒造の未来に期待をにじませた。