価格交渉への対応や心構え及び原価管理を含む経営活動への支援
特殊な材質を用いた精密工具の生産と修理を行っている。地元出身の先代が、同業種の中堅企業である大阪のD工業㈱から独立し創業した。当初は、大手A社の下請け仕事が多かったが、次第に縮小しゼロになった。10年前から、大手のH金属との取引を開始し。現在では売上の8割を占める。残りの2割は、同業他社である中堅企業向けの修理作業を受託。財務状況は、売上高1億円弱、スクラップ収入により経常利益は黒字を確保。
住 所:非公開
売上高の8割を占める大手企業である取引先との価格改定交渉は、年に2回実施している。交渉時に「原価構成表」の提出を求められ、先代から受け継いだ資料を基に作成しているが、根拠が薄く、前回は要求額の5%カットで価格決定となった。この「原価構成表」は業界標準を元に作成した資料と聞いており、精度の面や実態との乖離について不安がある。直近で生じたロシア産原材料やエネルギー費の高騰も反映したいが、策定方法がわからず手が付けられない。
相談者としては、今後事業を継続するには検査装置の更新が必要だが、この投資をどのようにして回収するのか答えが出ておらず、また、非常にニッチな市場で同業者が後継者不足で廃業しており、過去取引をしていたA社からも引き合いがあるが、どうすべきか判断できない状況。そうした中で、直近の経営状況には特段の問題はないが、1社依存のリスクを認識していないこと、原価の把握ができていないため製品別の利益も把握できていないこと、人材育成のツールが全く無いことなど、社長が生産作業に忙殺され、経営活動が十分できていないことが課題である。
支援方針として、まずは直近に迫った価格交渉への対応を最優先し、並行して、今後の価格交渉を含む経営全般に関する支援体制を構築することとした。取引先から要求された提出資料の内容を確認し、自力でできるものと支援が必要なものを選別した。そのうえで、支援が必要なものについては、相談者の生産プロセスに沿った原価計算方法を提案し、具体的な数値計算については、顧問税理士の協力を要請した。また、設備投資の回収について、設備付帯経費も含めた単価割りかけ額を具体的に提示した。相談者は、これらアドバイスを踏まえた結果から算定された値上げ率が想定以上であり、それによる失注を懸念していたため、業界状況等をヒアリングし転注や内製化の可能性が低いことを確認し、下請け法や下請けGメンについても説明し、当然の交渉であることを強調しつつ、取引先への要求は、事実に基づいた論理的な値上げの説明であることを伝えた。
価格交渉の結果、原材料及びエネルギー費の値上がり分に加え、設備投資の割かけ分を価格に反映することができた。一方で、今回、人件費の上昇原資分も交渉したが「社内の改善努力でお願いしたい」との取引先の回答で見送りとなった。今後は、経営状況に関して顧問税理士と定期的に確認を行い、各支援機関への相談を積極的に行うことや、賃上げに関する交渉は、後押しする風潮となっているので今後も交渉を進めてよいが、一方で省力化に向けた現場改善を行うことを助言した。
オンライン相談が中心であったが、生産現場の状況を具体的にヒアリングし、生産プロセスに基づく原価計算となるよう気をつけた。また、社長が交渉の席で説明できるように、理解しやすいロジックの原価計算とした。さらに、社長が多忙であるため、情報収集や資料作成に極力手間のかからない手法を選択するとともに、社長は財務諸表の見識が十分でなかったため、顧問税理士の協力を要請した。
今回、支援を受けたことで、価格交渉がこれまでになくスムーズに行うことができ、十分な価格転嫁ができました。顧問税理士との関係が構築され、今後の価格交渉にも連携して対応が可能となりました。人件費に係る交渉は、その実現が達成できるまで、今後も続けていきたいと思います。