石の上にも13年、農業事業参入を果たし前年比売上400%達成
代々受け継がれた農地を、どのように有効活用するか10年以上思案していた相談者。農業生産を安定させ、6次産業化、農家レストランの開業で地域経済を活性化させたいとの構想を抱き、実現に向けて歩み始める。
2014年9月に相談者が、売上拡大セミナー後の相談会で農業参入について当支援拠点に相談。相談者には、代々受け継がれてきた私有地があったが、その他にも耕作を依頼された農地や高齢化により耕作放棄地となった土地の管理も担っていた。これらの合計約3haを超える農地をどのように有効活用するかについて、10年以上も前から思案していたという。
葛城古道は、店舗や土産物が少ない一方で観光客は年間70万人にのぼり、地域性のある食材をほぼ自然の土で育てられる耕作環境は強みになると考えていた。次第に「農業生産を安定させて6次産業化を展開し、自家栽培による農家レストランを開業すれば、地域経済の活性化につながる」という構想が生まれたという。しかし、農業に参入するためのノウハウや資金調達、人員確保の方法といった様々な課題が整理されないまま山積していた。
コーディネーター(以下CO)は以上のような構想を受けて、補助金・融資等を受けながら事業を軌道に乗せるために課題を整理。向こう3年間の計画作成を提案し、各フェーズに応じた支援を実施した。
1年目は「農業事業参入のための支援」。具体的には、奈良県農林部担い手支援課など行政機関の紹介や農業事業参入のためのノウハウ等の提供、そして事業計画策定と知名度向上の両立が可能なビジネスプランコンテスト「ビジコン奈良」への応募提案をした。
2年目は、自社で生産した農産物の加工品製造など「6次産業化の支援」。生産した農作物で加工品を作り、ハイカーなどの観光客に販売すること等を提案した。
3年目は「農家レストラン開業のための支援」。農地法に基づく農地転用や井戸掘削についての助言や資金調達に関するアドバイスを実施した。同社の事業内容を勘案し、まず国からの地域経済循環創造事業交付金の申請を勧め、併せて、同交付金を得るため南都銀行が主催する「ナント・サクセスロード」や奈良中央信用金庫が主催する「奈良ちゅうしんグッドサポート」を活用する方法も紹介した。
これらの提案を受け、1年目は、農業生産法人を設立。農作物の栽培を開始し、大和伝統野菜7品目を中心に約20品目の野菜を栽培。また、「ビジコン奈良」への応募や中小企業庁創業補助金の申請に向けて支援。青年等就農計画も御所市に申請し認定された。
2年目は、農産物の栽培と販売を軌道に乗せるため、路地栽培で大和伝統野菜を含め56品目を栽培。雇用事業を利用し、職業訓練校を運営している県内の山口農園から1名雇用し、栽培のリーダーとして育成した。6次産業化に力を入れ、「地域を訪れるハイカーや登山者に喜ばれる商品」をコンセプトに自家農産物の加工・商品開発を進めた。これらの商品開発には、なら農商工ファンドを利用して地元和菓子店等と連携した。さらに、葛城山麓農園㈱が生産した大和いもと地元食材を使った新商品を開発することで地域資源の活用による地域経済の活性化に貢献した。
そして3年目。農家レストランの開業準備を着実に進める一方、近隣耕作放棄地を中間管理機構から受け入れ、当初約3haの農地が、現在では個人・法人所有を含め約7ha(山林2ha含む)を所有し、農作物の安定した生産を行うことが可能となった。
1年目の売上げは農作物のみであり、601千円。2年目になると知名度が向上し、大和伝統野菜の安定的な出荷も可能となり2,384千円(前期比396.7%)まで増加。「鴨汁焼き小龍包」や「酒粕アイス」といった新しい商品も開発することができた。現在では和歌山経由で農作物を大阪の各地に出荷できるほどになり、3年目も着実に売上げは増加。事業内容も拡大させ、グランピングやジェラードの加工所、農家レストランの開業等に向け準備を進め、雇用も8名まで増加している。