補助金を利用した設備投資、IT活用で利益の柱を構築
過当競争が続く歯科技工業界。相談者は、利益を出すことが難しい保険診療から、利益率の高い自費診療の補綴物製作に「選択と集中」。付加価値の高い補綴物の提供ができる歯科技工用CAD/CAMシステムを導入し、利益率改善を狙う。
歯科技工業界は個人開業が8割を占め、家内工業的な歯科技工所が多い。同社では15名の歯科技工士を擁している。実は歯科医院はコンビニよりも数が多く、過当競争になっている業界でもある。相談は、三重県産業支援センターで開催されたホームページビルダー講習会に、相談者の奥さまが参加されたことがきっかけで始まった。新社屋を建てたばかりで、広告宣伝を目的としたホームページの作成について相談があり、会社を訪問。ちょうど相談者が経営を見直していこうと模索されていた時期だった。
歯科診療には、保険診療と自費診療がある。たとえば保険診療の補綴物(差し歯・いれ歯)は下請け構造的な業界特性から売上げは立つものの、利益を出すことは難しい。そこで、より付加価値が高い自費診療の補綴物製作に「選択と集中」をすることにした。
そのためには、自費治療専門で技術力があり、パートナーシップが組める審美歯科医の新規開拓を行う必要があった。
自費診療の補綴物製作に「選択と集中」するためには付加価値が高い補綴物を提供できる設備投資が必要だが、国内に導入事例がなかった。また今後、歯科医業界がどの方向にいくか歯科医のニーズとずれがないかも見極める必要があった。設備投資は自己資金が前提だが、リスクが高いこともあり、タイミングよく募集がはじまった「ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金」に応募するよう提案。設備は、自己資金と併せて資金繰り計画を立て、ドイツメーカーが開発した歯科技工用CAD/CAMシステムを導入。CAD/CAMシステムの一部「ゼノテックファイヤー」で補助金を使用しCAD/CAMシステムの作業環境を整えることができた。海外研修を含めた社員教育を行い、ノウハウを蓄積して生産工程の一部を自動化、さらには品質の安定につなげることにした。
また、同社では、今後、自費診療の補綴物はデジタル化が進むであろうと推測し、「設備導入」「人材教育」「ネットワーク造り」「工程管理 業務改善」を推進。従来の金属に陶材を焼きつける工法ではなく、ジルコニア材料を使い、金属アレルギーが発生しない生体親和性に優れた補綴物製作を行っている。設備導入による内製化で生産リードタイムを15日から8日に削減。また、外注経費も販売価格の38%から12%にコストダウン。
以前は保険補綴物が主だったが、今や自費補綴物がメインの売上げとなり利益率が大幅に改善。経常黒字を恒常的に出せるようになったという。次の課題はいかに次世代へ会社を引き継いでいくか、いわゆる事業承継だ。相談者は、「会社を変えていくための「知識」と「原動力」をコーディネーター(以下CO)からアドバイスをもらった」と語る。
同社が変わらざるを得ない状況となった外部要因は、歯科業界のデジタル化で業界全体が大きく変わったこと。内部要因は、ベテランから若い世代へ、全体として技術などを承継していく必要があること。同社にとって、変わることは今まで積み上げてきたことを壊しながら「新しい自社の価値」を積み上げる難しい道のりだった。しかし厳しい選択に迫られた時、COに相談することで、視野が広がったそうだ。今はようやく、自社の「ありたい姿」を思い描き、進めるようになってきている。
先日、結婚で退職した女子社員が復職相談に来社したという。「まるで別会社に来たみたいで驚きました、またここで働きたい」と話してくれたという。相談者は「褒めてもらった気分」になったと表情を緩めた。