「見える化」が押した相談者のスイッチ 徹底的なコスト削減と新商品開発で黒字転換 自力再生の道筋をつける
寛永3年(1850年)創業。5代に渡り、豆腐関連商品の製造・卸を営む。豆腐の製造技術と味には定評があり、(一財)全国豆腐連合会の九州・沖縄地区豆腐品評会では唯一2年連続で銀賞を受賞している。「和みを吉とする食文化への挑戦」を経営方針として、祖父の名前を冠した「和吉」ブランドを展開。代々伝承されている「のどにはりつく甘さ」の豆腐を提供している。
代表者:代表取締役 大島 政治(おおしませいじ)
住 所:〒869-1102 熊本県菊池郡菊陽町原水1348-3
連絡先:096-232-4520
創業以来170年にわたり、確かな品質の豆腐を提供し続けてきたが、近年は競合他社との価格競争に巻き込まれ、慢性的な営業赤字が続いていた。商工会の支援を得ながら、金融機関から返済猶予を認めてもらうなど対策を講じ、徐々に利益が出はじめたところで、熊本地震で被災。工場の製造ラインが一部損傷するとともに、売上が激減した。しかし、今後の取引の継続性を考えると、廃棄ロスが発生するとしても、一定量の製造・納品を続けざるを得ない。そのために、赤字は更に累積し、ついには約1億円の繰越欠損金になるまで積み上がっていた。
営業赤字が続くなか、6年間にわたるバンクミーティングを重ねても改善せず、さらに熊本地震による状況悪化をきっかけに、ついに取引先銀行からM&Aの提案を受けるほどまでに追いつめられていた。相談者である社長は業績悪化に責任を感じており、自らの引退も考えていた。子息である専務が、商工会の事業計画セミナーに参加したことを契機として、商工会から当拠点に、営業赤字の改善及び金融機関対応の緊急要請があり、当拠点が相談対応を行うことになった。
緊急要請に対応したCOが、慢性的な営業赤字の原因を確認するために決算書を分析するなかで、粗利益率が業界平均と比して非常に低いことが判明。具体的には熊本地震により主力商品の製造ラインが一部損傷してしまったにもかかわらず、生産継続の必要性からこれを使い続けたことで、原材料の約1割が製造途中で地面に落下。また、商品及び取引先によっては、取引条件による返品が発生し、売れば売るほど赤字になっている先もあった。相談者は社外で法人会やロータリークラブの理事を務めるなど多忙な立場で、同社の経営に十分に目が行き届いておらず、これらの状況を把握できていなかった。いよいよ資金が枯渇する状況になっていたため、まずは赤字を止血すること、そして粗利益率を向上させて、とにかくキャッシュを創出することを、最擾先の課題に設定した。
あわせて熊本地震前から同社を悩ませていた、業界における価格競争についても分析をおこなった。すると、豆腐の製造業界は事業規模が大規模と小規模に二極化しているなかで、規模として中間であった同社はどちらともつかない価格帯で商品を販売。そのことが原因で価格競争に巻き込まれていることが明らかになった。そこで、同社にとって適正な価格で販売することができるよう、新商品の開発や商品展開の改善も課題として設定した。
当拠点のCO2名と、商工会の経営指導員、顧問税理士が連携して支援を行うことになった。まずは相談者自身にも現状を理解してもらうため、経営状況の「見える化」に取り組むことを提案。専務は、顧問税理士が作成した月次資金繰り表を基礎として、商品・販売先ごとの原価計算を実施した。徹夜で対応した専務に応える形で、COら支援団も、全商品、全取引先の分析を行い、原因の所在を明らかにした。経営状況とその原因が「見える化」されたことで、毎営業日早朝から作業を頑張っている従業員を思って、積極的に作業改善などの指導ができていなかった相談者の考えが変わり、スイッチが入った。その後、相談者の陣頭指揮のもと、損傷により原材料の落下が発生していた製造ラインの可能な範囲での修繕、赤字となっていた取引先との取引条件変更の交渉、不採算商品の廃止などに社をあげて取り組んだ。拠点の支援に並行して、相談者は、国産大豆の仕入れ先との値下げ交渉や、製造工程での電源オン・オフの徹底など、自発的な経費のカットにも取り組んだ。
同社の事業規模に応じた粗利益率を出せる新商品開発にも取り組んだ。当拠点の実施機関でもある、くまもと産業支援財団の専門家派遣事業を活用して、新規ブランドを開発。同社の5代170年の伝統を感じさせる「五代継承」ブランドの商品を打ち出し、大手スーパーマーケットとの取引につなげることができた。また、業務用絞り豆腐や中堅スーパーマーケット向けのプライベートブランド商品など、中規模の同社だからこそできる新商品を開発。いずれも粗利益率の増加に貢献した。
数々の経営改善策により、経常利益が3千4百万円近く改善され、黒字転換。また、粗利益率も約11%改善し、企業体質として黒字を生み出すことができるようになった。キャッシュフローも、マイナス2千3百万円だった前期からプラス1千万円に改善。さらに、新商品の開発も功を奏し、売上高は10%以上の伸びを継続できており、喫緊の課題であった事業継続のためのキャッシュ流出の止血に成功した。まだ、キャッシュフローも余裕があると言える状況ではなく、予断を許さない状況に変わりはないが、金融機関への返済も行えるようになったため、信用も回復。自力再生に向けた取組を進められる状況になった。
今回の支援を通じて、従来自社の経営に十分に取り組めていなかった相談者が、経営状況をしっかり把握できるようになった。そして、相談者の陣頭指揮により従業員全員で経営改善に取り組めたことで、今後のさらなる改善への展望を持っていただくことができるようになった。今後は、製造工程のさらなる生産性の改善を進めていき、安定的に事業を継続できるようにしたいと考えている。また、子息である専務への事業承継も視野に入れている。将来的には、「豆腐業界のなかでも同社にしかできない商品価値の提供、地元になくてはならない企業を目指す」という、相談者の希望に沿えるような支援を行っていく。
自社の経営に十分に目が行き届いていなかった相談者にも、経営改善策の成果を認識してもらい、やればできると思っていただくため、徹底して「見える化」を行うように心がけた。その際、相談者及び子息の専務に原価計算をはじめとした作業に加わっていただくことで、売上額だけを追うのではなく、粗利益を増加させる・キャッシュを創出するという方針への転換が必要なこと、徹底的に原価計算を行うことの重要性を理解いただいた。また、新商品開発についても、その強みを生かした商品開発及ぴブランドの構築などを提案するように心がけた。
経営者は資金繰りや人の問題にしても孤独であり、相談できる人はいない。今回、心が折れそうな時も、COの「大丈夫」という一言でなんとかなると思えた。私たちが日々の仕事で気がつかないことを教えていただき、さらに、新商品開発まで見出せた。支援を通じ励ましていただいたことによって現在の状態までになれたと思います。心より感謝いたします。