受注量減少に伴う価格転嫁
昭和62年4月に現社長が事業所を設立し、資本金300万円、従業員15人の金属加工業である。平成29年に法人化した。息子(30代)が専務取締役に平成29年に就任し、今後、事業承継を考えている。精密金属加工の受託事業が主な事業であり、30~40社の顧客と取引している。主な用途は半導体装置用で受注品の50%超はリピートオーダーである。
住 所:非公開
材料費の高騰、受注数量の減少により令和5年より減収減益傾向が続いており、令和5年度は赤字転落の見通しである。当社事業は2次または3次下請け加工のため価格交渉が難しく、これまで値上げ交渉を実施してこなかった。当拠点では、10年前から人事・労務、生産性等多方面に渡り、支援を継続してきた。当拠点の担当変更のタイミングでヒアリングする中で、これら価格問題が浮き彫りになった。
受注している品番の50%超はリピート品であり、当初見積から条件が大きく変わる中、価格の据え置き、数量減の状況が続いている上、材料費高騰の影響で利益圧迫に直面している。さらに新規品の見積においては、リピート受注品との抱き合わせを前提とした価格で取引が始まっているケースもある。コロナ禍の影響もあり、全体の数量減による売り上げ減少が続き、令和5年度は赤字に転落する見通しである。営業利益は黒字から赤字へ転落し、値上げ交渉なくして経営立て直しが困難な状況にある。社内的には工場運営で残業時間等の労務問題が浮上し、令和5年に新規採用と従業員賃金の一部見直しを行った。社内の生産性向上に加えて既存取引先の価格値上げが喫緊の課題となっている。
売上の上位顧客10社を選定し、取引金額の推移と問題品番の抽出を行った。材料費、加工時間の差異評価を行い、計算根拠と値上額の準備を進めた。また、下請かけこみ寺と協業し、下請法の理解と交渉ポイントや留意点に関わる情報を提供した。こうした準備を行った後、顧客関係性を踏まえ、相談者は8社に対し価格交渉を行った。労務費増加(人員増、賃金増)の影響を評価し見積レートの見直しと既存品番の限界利益について個別評価を進めている。
価格交渉の準備を経て、選定した主力顧客8社に対し50品番の価格改定を提示し、7~8割の品番で当方希望が実現できた。今回の価格交渉取組みによる会社全体への利益改善効果は約2割程度を達成できた。今後も、限界利益の低い品番の値上げ交渉は、他社レベルを推定し交渉の是非を検討する。直近レートで見積基準を見直す一方、競合他社と比較評価しながら値上げとコストダウンの両輪を回していく。単一の金属加工に加え組立品の受注を目指し、高付加価値の体質強化を図っていく。
相手先企業との関係、交渉で気を付けるべきこと(下請かけこみ寺)について情報提供した。価格転嫁の理由をできるだけデータや数値で示し、交渉することを提言した。人員増加は相談者側の要因でもあり、価格交渉に加え社内改善の必要性をお話しし、検討頂くことを推奨した。
非対面式打ち合わせで、短時間で回数を重ねることができました。COの提案も含め、前向きな価格転嫁を促す取り組み、クライアントとの健全な関係性を今後も求めて追及していきます。