価格転嫁による適正利益の確保と原価管理体制の構築
昭和44年創業、資本金1,000万円、従業員数5名、年商32,000千円(令和5年3月期)。現社長の祖父が設立し、創業時から大手自動車(株)のグループ会社の協力工場として、自動車部品であるベアリング製造のための治具、その他自動車関連部品を製造している。
代表者:松原 信二
住 所:〒761-0311 香川県高松市元山町606
連絡先:087-865-2557
大手自動車(株)のグループ会社の協力工場として、売上高の94%を依存している。ベアリング治具製造に特化した生産体制であるため、主要取引先の同関連部品以外の生産が難しい。また、車の電気駆動化が進展することによって相談者が製造しているベアリング関連の受注が減少している。さらには、コロナウィルス感染症や地震など自然災害の影響により、自動車産業の生産ラインが滞り、今後も生産調整が行われる可能性がある。こうした先行きが不透明な状況に対し、現状打開を図るために取引金融機関同席での相談依頼を受けた。
原価管理体制の構築について、現状では、主要取引先より価格改訂を行う定期的な機会があるが、形骸化しており、先代社長の代より、直近20年以上は実際に価格改訂された製品はない。都度見積りによって価格提示するものの、先代社長の勘や経験に頼ったものであり、数字的根拠はなく、適正利益の確保が曖昧な状況であった。次世代自動車業界における生産動向の不透明さについては、自動車業界における今後の大きな流れとして、「電気自動車化」と「自動運転化」が加速する見通しであり、特に電動化が進むことで、ベアリング関連部品の発注が先細りすることが懸念される。また、コロナウィルス感染症の蔓延による自動車産業の生産ライン稼働低下は、大きな受注の落ち込みとなった。
現状主要部品の原価差異分析について、多品種小ロット生産が主流となる中で、売上高の80%強を占める製品が約20種類となることが、社長とのヒアリングにより判明した。まず初動としては、ピンポイントでこれら20種類の製品に対し、現状における販売価格と原価の差異分析を行った。また差異分析の結果、簡易な原価計算シートフォーマットを提供することで、取引先と価格交渉を行うことを提案した。運送費用の価格転嫁について、東かがわ市にある主要取引先への納品は、週3回の定期便にて行っている。加工工程プロセスにおいて、硬度を高めるための焼き入れ処理が必要となり、主要取引先指定の熱処理業者への持ち込み、引き取りについても納品便で賄っている。しかしながら、燃料費も急激に上がっている中で、過去からの慣例として、これらのハンドリング費用が価格に反映されていない。運送費用についても販売管理費として価格に転嫁することを提案した。
自社コストテーブル(時間チャージ)の設定として、年間総人件費、就業時間、稼働率等から自社内の人(man)時間チャージを設定した。また、減価償却費、ランニングコスト、操業時間等から機械設備(machine)時間チャージを設定した。数字的根拠に基づく原価改善として日々の生産活動の中で、定点観測による原価差異分析を行い、設定した自社コストテーブルの精度を高めていく。
三現主義に基づく原価改善意識の醸成として、相談者の事業所へ赴き、現地確認を行った上で、現場・現物・現実の三現主義により、具体的な原価管理の手法について説明を行った。主要製品の加工工程、加工図面、加工時間、加工手順、使用設備など、実際の加工状況を現地にて相談者と一緒に確認しながら、原価管理を行うため最低限必要な情報を収集した。
令和6年3月末日締めの価格交渉において、主要部品を含む約200種類の価格改訂の申し入れを行った。適切な価格転嫁のための交渉について、主要取引先も前向きな姿勢であることから、概ね希望通りの価格転嫁が了承される見込みです。今回の原価改善の取組みを通じて、体質改善を行い、新たな取引先の開拓にも取り組んでいきたいです。