1社取引加工組立事業者の賃上げに向けた労務費部分の価格転嫁交渉
医薬品・洗剤・シャンプー容器などにかかるブラスチック部品の加工および組立に従事(業歴50年以上)。長年、売上のほぼ100%が取引先1社(30年以上の取引歴)であり、取引先親会社が最終製品を各種メーカーなどに販売。取引先から材料・部品の支給を受け、それらの加工及び組立にかかる加工賃が取引価格の大半を占める。機械治具等も支給が主。品質(不良品検出、組上げ品質、品質管理など)に強みがあるものの、売上、営業利益ともに長年減少傾向であり、直近2期営業赤字となっている。
住 所:非公開
直近2期営業赤字となっており、その利益圧迫の要因は、取引価格の低迷及び運送費、光熱費、人件費(ただし最低賃金以上を支給)の高騰などが影響。また、人件費の伸び率は、最低賃金伸び率を下回る状況が続いてきている。長年、取引先が価格交渉を拒否していたが、令和4年に一度価格交渉を実現。15~17%(労務費10%、経費5~7%)の改善を要望し、5%の改善で決着した。その際は、主に燃料費・消費電力価格の高騰データで交渉したところ、労務費・人件費部分は、自助努力でカバーする旨を要求された。賃上げのために再度取引価格改善交渉を行いたいとのことで、当拠点の支援を希望した。
まずは、賃上げ目標を3%(令和6年4月1日より実施を想定)で設定するとともに、営業利益目標±0(赤字脱却)で設定。現状の設定加工賃単価は、1500円/時弱であり、賃上げを実現し営業利益を±0にするには、最低でも1600円/時程度が必要となるため、1700円/時程度を目標取引価格に設定(仕事量を同程度と想定)。これらにより、12%の取引価格改善を交渉目標に設定した。相談時点では、すべての経費を販管費に計上しており、財務諸表上で売上原価を把握しておらず、まずは、簡易的に売上原価を把握することとした。
相談者は、今までの原価、経費削減努力及び今後実施する計画を書面化。また、安定した品質で納品を続けるために、ある程度利益が必要な旨を書面化。さらに、価格改善により、どのように品質が安定、改善するかを書面化し、取引先とのWin&Winの関係を訴求した。これら書面化に係る取組に加えて、取引先の財務状況など事業状況(TSRデータ、HP情報など)を把握した上で、交渉窓口としてはまずは調達担当者となるが、社会的な動きに対してアンテナの高い取引先の上位役職者に話が上がるよう交渉を展開した。このほか、相談者は、取引価格交渉に向けて、政府や業界団体などのバックアップ施策(労務費転嫁に向けた指針や施策)や、最低賃金データ(金額、伸び率)の活用、同様立場の事業者からの情報収集(状況に応じ連携して交渉)を行った。
まずは、6%の価格改定を実現し、それを原資に3%賃上げを実施した。次回(10月、最低賃金公表のタイミング)の価格改定交渉時には、さらに6%上乗せ以上を目指す。その交渉に向けて、原価管理体制を整備していく(売上原価の把握)。今後は、半年に一度の頻度で価格改定交渉を定例化。定期的に一定の賃上げが可能となるように賃上げ計画、価格改善計画を策定する。
今後も、取引先との関係が建設的に維持され、Win&Winな取組となるように交渉するべく、関係者(経営者、従業員、取引先、その親会社、同業他社)全者に配慮。価格交渉は、一度ではなく定期的に実施されるべきものとして、相談事業者及び取引先の両者が認識するように誘導。
この度は当社の労務費上昇に対しての価格転換交渉に関して、並々ならぬ、ご助言とご指導により、取引様と良き交渉となり、価格転換交渉に良き成果が得られた事に対して本当にありがたく存じます。これからもよろしくお願いします。