PR視点の商品開発で、前年比約120%の売上げを達成
山形県、寒河江温泉にある「ホテルシンフォニーアネックス」。これまで、婚礼や宴会中心の営業を行なっていたが利用者数に陰りが見えてきたことから、宿泊部門の強化に着手。ホテル運営の基盤を整えると共に、「外向き企画」で突破口を開く。
山形県は天童温泉や、かみのやま温泉をはじめとした有名温泉地が多く、全国的な知名度を誇る旅館やホテルが数多く存在している。一方で、寒河江温泉は県内でも知名度が高くなく、温泉街としても比較的小規模であることから、観光客の利用増加が地域的な課題になっていた。
同社は寒河江温泉でシティホテル「ホテルシンフォニー本館」とリゾートホテル「ホテルシンフォニーアネックス」を展開。地域客の利用が多く、婚礼や宴会中心の営業を行っていたが、少子化により婚礼需要が減少、宴会需要も地域客の高齢化や人口減少の影響を受け減少傾向にあった。相談者は、主要事業部門の収益性や今後の市場性を考慮し、これまであまり力を入れてこなかった宿泊部門を強化したいと考え、来訪相談に至った。
相談に対応したチーフコーディネーター(以下CCO)は、相談者がホテル部門の中でも、「ホテルシンフォニーアネックス」の売上拡大を望んでいることを確認した上で、宿泊部門に関与しているスタッフのヒアリングを実施した。当初の問題は、価格を下げ稼働率重視で客室販売をする傾向が強い事、宿泊プランにバリエーションが少なく「客室タイプ・曜日・食事の有無」で価格設定を行なっており、お客様の利用用途に配慮した付加価値型の企画がほぼない事が確認できた。
また、平日はビジネス客をターゲットにしているが、客室のつくりを見ると全30室中22室はツインのベッドルームに小上がりがついた和洋室、他8室は和室や特別室などであることから、観光客の開拓が必要であると分析。観光客を開拓する上では、限られたコストの中でいかに露出を増やし、知名度を高めるかが課題となった。
CCOがまず提案したのは、実績管理内容の改善や価格設定の仕組みづくり。RevPAR(販売可能な客室数あたりの客室売上)を追加した実績管理表や季節や需要に合わせて価格を変動させるレベニューマネジメントを取り入れることで、ホテル運営の足元を固めた。
その上で、3つの「外向きの企画」を打ち出すことを提案。マスコミに取り上げてもらえるよう、リリースを徹底し新聞記事掲載を通じてホテルの露出を増やす構想を示した。
3つの「外向きの企画」として提案したのは、①知名度の低さを払拭すべく、山形県のほぼ中心に位置する寒河江温泉を県内観光の拠点として訴求。二次交通としてレンタカー利用を促す、レンタカープランの開発とレンタカー会社との業務提携を行なうこと。②古くなりつつある客室を山形の特産物をモチーフにしたコンセプトルームや県内企業の技術に触れる事が出来るような製品を使用したコラボ型のコンセプトルームを企画し付加価値をつけること。③農産加工品開発に取り組む農業者や山形県内の食品メーカーの商品をセットにして法事用のギフトとして販売し、他と差別化を図ること。相談者は役員会議や宿泊部門会議などで検討した末、これら事業に取り組む事にした。
「少しずつではあるが、売上げが増加傾向になってきた」相談者がそう語るように、「外向きの企画」は功を奏した。ホテルシンフォニーアネックスの売上高は、平成29年9月実績で前年比122.4%を達成。法事用のギフトは1ヶ月で200セットを販売した。ホテルの露出という面でも、3つの企画がすべて山形新聞に取り上げられるなどPR効果も大幅に向上した。そればかりではなく「取組みの効果が目に見えはじめ、従業員も積極的に取り組むようになった」と、新たな取組みが従業員の意識改革という意味でも効果的に働いているそうだ。