経営安定化を目指す中で明らかになった適正労務費獲得への取組み
平成28年に、現社長が電気通信工事の専門工事業として創業。 大手事業者が発注する工事を、2次・3次下請け業者として受注し、主に配線工事を施工しており、内容は労務主体である。営業区域は、県内に留まらず北東北エリア。創業以来、実績を重ね、徐々に売上と社員数を増やしてきたが、直近は事業者の設備投資計画の見直しなどの影響により、売上減少に苦しんでいる。
住 所:非公開
創業以来、地道な努力で売上を伸ばし、一昨年には新たな元請け事業者からの継続受注も獲得した。そこで、各元請け事業者からの打診を受け、社員も増員し施工能力の増強を図った。ところが、発注元の設備投資計画が見直しされ、相談者の売上が激減した。これにより、工事原価にかかる人件費の割合が高止まりし、経営を圧迫するとともに、運転資金不足の懸念が生じ、当拠点での相談実績のある知人の紹介で訪問に至る。
運転資金不足の懸念から、メインバンクに追加融資の相談をするが、返済原資が乏しいことから難色を示され、追加資料として、財務の現状認識と経営改善策を求められていた。当拠点において、財務分析を実施し資金繰り表を作成するとともに、財務状況を数値化し分析したことで、元請け業者が提示する発注金額では、会社を維持できるだけの利益が確保できないことが判明した。売上拡大・経費削減とともに、実態に即した価格転嫁交渉の必要性が明示された。また、経営改善策としては「社員の保有資格」を基に、新規顧客獲得に向けた営業先リストを作成し、経営改善計画書を作成した。これらの資料をメインバンクに持込んだところ、追加融資が認められた。
本事例は、財務・金融に専門性を持つCO、データの数値化に専門性を持つCO、建設業界に知見を持つCOの3名が、情報共有しつつ相談対応した。今後、新築が減少し改築が増加することが想定されるが、改築は工事難易度が高くなるものの、働き方改革により建設技術者の不足が予想される。ついては、収益性の高い業界を見定め、より高値で受注し社員に還元する仕組みを構築することが、事業継続に必須であることを経営陣に説明し理解頂いた。そのうえで、喫緊の課題である「主たる元請け業者への価格転嫁交渉」では、「国土交通省による設計労務単価の見直しに関わる通達」を交渉用の資料として使用することとした。これを基に、交渉先より受注した過去の発注工事に関わる労務費実績と対比して図示することを提案し、「集計・図示用の雛形」を提供した。
価格交渉のための資料が整備できたばかりで、スタートラインに立った段階である。4月より「建設業の働き方改革」が始まり、労務単価に注目が集まることが多くなることが想定され、交渉がプラスに働くことを期待している。今後、新規顧客の工事も含め、顧客毎・工事毎の個別原価管理を導入し、経営安定化を最優先の方針とした。以上のことから、様々な価格変動要因が増加しても、適切な利益獲得がなされることを期待している。
重層下請け構造のなか、元請け業者は過去の実績金額をベースに、請け負う側である(労務主体の)専門工事事業者に対し、価格提示するケースが多い。これが理由で、工事完了後に利益を生んでいないことが判明することが多々ある。「請負契約」という契約形態である以上、契約後の見直しは出来ないことから、「一目瞭然の資料で価格交渉に臨むこと」・「交渉は粘り強く双方が納得できるようにあたること」を進言した。
会社の財務状況が苦境に陥ってからの相談にもかかわらず、COの方々には親身に何度も相談を受けていただきました。相談前は現状認識が出来ないほど視野が狭くなっていましたが、相談後は経営方針の見える化が出来て、納得して経営に臨むことが出来ております。苦闘は続いていますが、結果を報告するためにも励んでまいります。