価格転嫁交渉及び原価計算の必要性についての気付きを与えた事例
相談者は約50年前に設立後、群馬県内を中心にホテル・旅館にシーツ、浴衣・タオル等の繊維製品等を洗濯付きで貸し付けるリネンサプライ業を営んでいる。また、一般家庭の衣類を対象としたドライクリーニングも取り扱っている。近年の燃料費・灯油代の高騰を受け、製造原価の増加による今後の財務面の不安を理由に、令和5年11月に当拠点へと来訪された。
現状の財務状況として、直前期は黒字決算で運営しているが、製造原価の増加から対前年比ベースでの営業利益の減少が続いている。製造原価の主科目として仕入、賃金、燃料費、賃借料があげられ、ほぼ全ての原価科目が対前年比で増加している。特に燃料費は、対前年比で150%程度増加している。燃料費の増加は、顧客から預かった繊維製品を本社工場で一括して洗濯する際に必要な重油代の高騰が原因となっている。売上比率としてリネン部門が90%、一般クリーニング部門が10%となっている。令和5年4月~令和6年5月の期間中にクリーニング部門の値上げを実地している。相談者との現状を確認した後、課題設定を行った。①リネン部門の顧客との価格転嫁交渉の必要性と方向性の設定、②リネン部門の製造原価の内訳把握についての質の向上(現状より精度を上げた原価管理)を設定した。
製造原価が高騰している現状で、営業利益を増加させ、財務面を安定化させるためには何が必要なのかを相談者と検討した。販管費ベースの各科目のコスト削減、金融機関からの資金調達や条件変更、給与・賃金体系の改定、新規顧客の獲得などが候補に挙がったが、最終的には1単位当たりの売上拡大が必要であることが明確となった。1単位当たりの売上拡大を行うため、まずは単位当たりの原価計算を行い、損益分岐点を確認するよう説明した。決算書から1単位当たりの材料仕入、労務費、外注費の計算方法を説明し、製造原価の配賦計算についても説明した。相談者としては、値上げ交渉前に必要な材料として、原価計算が必要であるとの認識を得て、まずは原価データを収集することで今後の方向性を見出していく運びとなった。
まずは、相談者の原価データの収集を確認している状況であるため、当拠点としては原価計算の結果を確認・ブラッシュアップを行い、1単価当たりの数値の精度を高めていくようなフォローをしていく。その後、価格転嫁交渉を行うタイミング、情報整理や交渉の際に必要な資料について、相談者と共に内容を精査して、その結果、顧客との交渉が成立するように支援していく。
リネン部門の顧客(ビジネスホテルや旅館)も新型コロナウイルスの影響や近年の経済情勢から、決して好調といえる業種ではない。相談者からの現状を確認した際には、顧客との価格転嫁の交渉をせざるを得ない状況は明確であったが、安易に「値上げ交渉・協議を行えばよい」との発言は最後まで控えた。製造原価が増加している現状で、自社の雇用を守り財務面を安定させるためにはどうすればよいのか、なぜ値上げ交渉に踏み切らなければならないのか、相談者に気付いてもらうよう支援を行った。
初回の相談からご丁寧なご対応をいただき、多くの気づきを得ることができました。
専門家の視点からご助言をいただけたことで理解が深まり、原価管理の重要性を再確認することができました。また現状を打破する方法を気付かせていただき、誠にありがとうございました。