予期せぬ人手不足を攻めの設備導入で乗り越え、売上げ130%を達成
父親の予期せぬ長期病気療養や中堅従業員の産休が重なり、人手不足に陥ってしまった相談者。この難局を設備投資で切り抜けることを決断したが、本当に必要だったのは売上拡大と生産性向上に向けた取組みだった。
店内をのぞくと、和菓子と洋菓子が所狭しと並ぶ「パティスリー白川」。その創業は、明治20年、和菓子店として創業したが、四代目である相談者が洋菓子の製造・販売に事業を拡大し、現在のスタイルになった。看板商品である焼菓子「ねむのはな」は、全国菓子博覧会で菓子博大賞を受賞するなど人気と実力を兼ね備えた和洋菓子専門店だ。
ところが、三代目である相談者の父親が予期せず長期の病気療養を余儀なくされてしまう。これと時を同じくして、パティシエである中堅従業員が産休に入ることとなり、深刻な人手不足に陥ってしまった。
菓子職人を育てるには、多くの時間を要することから相談者はこの難局を設備投資で切り抜けることを決断。国等の施策が活用できないかと、当拠点を訪れた。
不安を抱く相談者に対して、当拠点のコーディネーター(以下CO)は、傾聴の姿勢でヒアリングを行ない、生産効率の高い設備導入が喫緊の課題であることを確認。その上で、補助金を活用し設備導入が可能となった場合でも設備投資を上回る売上拡大が必要であることを助言。地元の商工会と連携し、店舗の立地や地元の観光客などの動向、近隣の競合分析、市場全体の需要動向を確認し、設備導入効果や売上拡大要因を丁寧に調査、分析することで具体的な課題を整理した。
具体的な課題として、看板商品の「ねむのはな」は手焼きであるため受注機会ロスがあり、量産と品質の均一化が必要なこと、「ここにしかないもの」という特別感や地産地消を意識した新商品開発が必要であることなどがあげられた。
一方SWOT分析から、同社の強みは看板商品がある、新商品開発への取組みとその定着状況が良い、人気商品を作る技術力があることを確認できた。
COは導入する設備(スチームコンベクション)は人手を補うためではなく、看板商品の量産化、品質の均一化が図れ、消費者が求める食感や容器形態に対応した商品開発が出来る機種とすることを提案。これを受け、相談者は、人手不足を解消するためにも売上拡大と生産性向上をテーマとした事業計画を作成、国の「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金」へ申請を行なった。
また、売上げや利益の拡大を図るため、秋田県内の豊富な農産物や秋田県の研究シーズなど複合的な地域資源を活用した商品開発を提案。当拠点から生産者や秋田県の総合食品研究センターの研究員を紹介し、相談者はこれを活かした7種の新商品開発に着手した。
こうした取組みの末、国の「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金」に採択され、大型のスチームコンベクション、カップシーラーを導入した。この設備は従来の3倍の生産能力があり、看板商品「ねむのはな」の受注機会のロスを防ぐことで売上げは1.4倍、全体で見ても売上130%と大幅な売上増を記録した。
また、地域資源を取り入れた新商品開発も実をむすび、試作した7種類の洋菓子のうち5種は素材の旬に合わせて順次発売予定となっている他、秋田県が実施する「東京土産」の和菓子を開発する企画にも採用され、現在、導入した設備を利用した新たな新商品開発に取り組んでいる。
相談者は「人手不足で不安な日々が続いたが、支援が心強い支えとなり、諦めかけていた事が形になると実感した。今後もより良いお菓子作りを目指して進んでいきたい。」と前を向いた。