先行きの不透明な事業引継ぎを連携支援で成功に導く
患者さんとの距離が密な調剤薬局を作りたい。 その想いから、事業引継ぎを決意した薬剤師の夢を、よろず支援拠点と事業引継ぎ支援センターが密な連携支援でサポート。
代表者:八幡 修一郎(やはた しゅういちろう)
住 所:愛知県名古屋市北区川中町18-19
連絡先:0587-23-1030(やはた薬局 東店)
愛知県よろず支援拠点
コーディネーター(中小企業診断士)
大手ドラッグストアに勤務していた薬剤師である八幡修一郎さんは、以前からの知人であった調剤薬局のオーナーに、一部の店舗を引継がないかと相談を受ける。いつの日か、患者さんと密な関係を築くことのできる調剤薬局をつくりたいという夢を抱いていた八幡さんは、平成26年3月にこの誘いを受ける形で調剤薬局へと転職を果たした。
当初は、平成27年4月に1店舗を引継ぐ形で独立・開業ができることになっていたが、その後、2店舗を当初の倍の金額で引継がないかという話を持ちかけられた。
「もともと、引継ぐつもりで転職をしているので、やるのであればすぐに引継ぎたいという想いだった」と八幡さん。交渉を先に進めるべく、オーナー側に決算書の提出を求めた。しかし、提出されたのは、決算書ではなく売上げのみが記載された資料だった。
今後、金融機関から融資を受ける上で決算書がなくて大丈夫なのか。引継ぐ薬局に関する確かな情報がない中で、引継ぎ価格だけが提示されている状況に不安を覚え、どのように事業引継ぎを進めたらいいのか悩んでいたところ、以前、当拠点を活用し、様々な知識と異業種の繋がりを得ていた姉の姿を思い出した。「オーナー側と対等な立場で議論をするためには、自分の知識を増やさなくてはいけない」と考え、平成27年9月に当拠点に相談に訪れた。
相談に対応したのは、当拠点のコーディネーター牧さんだ。牧さんは「支援は、エグゼクティブ・コーチングでありカウンセリング。支援者は、時にメンターでもあるべき」という信条を持っている。これは、相談者の本音を引き出す上で大切な姿勢だと語る。
牧さんは、初回相談時“傾聴”に徹する中で、八幡さんは事業引継ぎに関する知識が不足しており、経営や資金調達の知識も充分ではなかったことから、きめ細やかな支援が必要だと感じていた。
ヒアリングの末、八幡さんが引継ぎ価格に納得していないことがわかったが、決算書がない中で「引継ぎ対象店舗の見極め」「妥当な対価の設定」をいかに行うかが大きな課題となった。それに伴い「契約をどのように進めるか」「個人事業主にするのか、新会社にするのか」といった課題が導き出された。
これらの課題に対し、まず当拠点で事業計画や引継ぎの方向性を明確にし、その後専門分野である愛知県事業引継ぎ支援センターと連携し、支援を行う方針を打ち出した。
まず、引継ぐ店舗の見極めに取り掛かった。大きな方針は、儲かる店舗を適正な価格で引継ぐこと。既に店舗で働いている八幡さんと相談し、各店舗の収益性を顧客数、処方箋の枚数、1枚の平均利益ベースから算出する方法で考察した。
対価が妥当か否かは、店舗の収益性と今後の可能性の調査が必須であることから、事業計画の作成を提案した。
牧さんは「オーナーからの売上資料が本当であればいけると思う」と当初から八幡さんを勇気づけてきたが、事業計画の作成を機に将来予測が見える化され、「この計画でいける」という実感が八幡さんにも湧いてきたという。
牧さんは事業計画が概ねできた段階で、八幡さんと愛知県事業引継ぎ支援センターの中島さんをつなげた。中島さんは、具体的な事業引継ぎの進め方や留意点を説明。「ご本人の中で、こうしたいという想いはあったものの、それがどういう形態なのかの知識はなかった。そこで八幡さんの想いを伺いながら、一つひとつ具体的な事業引継ぎの手法へと落とし込んで行った」。
資金調達に関しては、政府系金融機関及び、民間の金融機関の融資を検討。「条件に対する一般的な感覚を牧さんから教えてもらっていたので、良し悪しの判断ができた」と八幡さんは語った。
個人事業主か、新会社を設立するかの課題に対しては、今後の事業展開を踏まえ、社会的な信用を確保する方が得策と判断し、株式会社での引継ぎを提案した。
このような支援を通して、オーナーと対等に交渉するための足場を固めて、牧さんは「夢の一歩でしょ、頑張ろう」と八幡さんの背中を押し、交渉へと送り出した。
八幡さんの粘り強い交渉も功を奏し、最終的に2店舗を当初オーナー側が提示した金額の6割の水準で引継いだ。公的機関である当拠点、専門性の高い事業引継ぎ支援センターに相談しているという前提条件も、提示金額の説得性と納得性を高める要因となった。
事業譲渡契約書は、事前に中島さんに内容確認をしてもらい、消費税の課税方法、競業避止業務等不足条文の追加等添削を受け、無事契約調印に臨むことができた。契約が決まった瞬間は、八幡さんも「やっとか」と肩の荷が下りた気持ちだったという。
資金調達は、事前に事業計画などを作成した支援の効果もあり、融資条件の良かった民間の金融機関より、事業引継ぎの資金をプロパー融資で、さらに、運転資金を愛知県信用保証協会の保証付きで調達。平成28年の8月に「やはた薬局 小沢店」を、同9月に「やはた薬局 東店」をオープンさせた。八幡さんは抱いていた夢の実現に向け、早速独自の店舗改革を展開しているそうだ。
当面は地道に計画目標を目指して事業基盤をつくり、「将来的にはM&Aも視野に店舗数の拡大を考えている」と、抱負を語った。
当拠点では、他の支援機関との積極的な連携を方針として打ち出している。本事例においても、専門性の高い部分に関しては愛知県事業引継ぎ支援センターと連携し支援を行った。
牧さんは「一人で支援をするのではなく、他の支援機関や制度を活用しながら、いかに組織化して支援を行うかが重要だ」と語る。あらゆる機能をフレキシブルに活用した支援を提供できることこそ、よろず支援拠点の真価と言えるのかもしれない。