窓口担当者が決裁権限者に説明できる資料を作って値上げに成功
相談者は、鋳物製の軽合金を取扱う商社である。主要製品は立体駐車場に使う鋳物製の歯車などである。40年前に創業し、現在は創業者の妻が2代目社長を務める。なお、代表者は高齢であるため、実質的には長女と次女のふたりで事業を取り仕切っている。仕入先は鋳物製造会社である。このうち、A社からのものが多い。一方、販売先は大手上場会社の子会社で、立体駐車場のメーカーB社が売上の約8割を占める。
住 所:非公開
相談者は仕入先A社からの値上げ要請を受けた。原材料のレアメタルの価格が以前と比べて2倍~4倍に値上りしているので、納品価格を値上げさせてほしいとのことであった。相談者は商社なので一定の仲介手数料を確保すべく、主要販売先のB社に値上げをお願いしたところ全く応じてもらえなかった。そこで、どうしたらよいのか教えてほしいと、令和5年11月末に当拠点に相談があった。
これまでの交渉状況についてヒアリングを行った。それによると「B社担当者に一生懸命に何度も値上げ理由を説明しているのに全く伝らない。彼からは値上げには応じられない旨の一遍の回答しかない」と、相談者は嘆いておられた。そこで、相談者は文書でもって値上げ要請を行おうと自社で作成された依頼文を持参していた。当拠点で内容を確認したところ、原材料価格の値上りについては数値で説明されていたものの、大半が文章で書かれており一読では理解しづらいものであった。今後の課題として、原材料の市場データは図表やグラフ化するなどして、見やすい・理解しやすいものにして、窓口担当者が決裁権限のある上司に説明(社内稟議)しやすい資料づくりをしていくよう提案した。
B社担当者には決裁権限がないので、B社担当者の上司に説明しやすい資料を作成して提出するよう勧めた。その際、相手が商品市場やその他外部環境の動向を全く知らないという前提で、資料を作成するようアドバイスした。また、文章だけでなく、市場データはグラフ化して視覚化を図るなど、初めて見る人でもすぐに理解できるような資料になるよう提案した。当初、相談者はそのような説明資料を自分たちで作らなければいけないことに抵抗を感じていたので、他社でも説明資料を作って値上げに成功していること、説明資料のサンプルがすでにあるのでそれを参考にできること、当拠点で資料づくりをアドバイスできることなどを話した。その結果、相談者は「それじゃ、自分たちで作ってみるので、見てほしい」と前向きになった。
アドバイスを受けた価格交渉の資料を販売先B社に提出したところ、令和5年12月末に値上げが通った。これによって、令和6年1月から売上高が10%拡大し、回収金も同程度増えたので、資金繰りが安定したとの感謝の報告を受けた。相談者自らの力で根拠データをグラフ化・文章化して販売先に値上げの要望書を提出できるようになった。また、窓口相談者には権限がなく、決裁権限のある者への文書であるという認識も進んだ。
説明資料のサンプルとして、埼玉県の「価格交渉に役立つ各種支援ツール」を紹介した。これを参考に、どのような市場データが必要なのかを理解してもらった。後日相談者が作成した資料を確認したところ、相談者側の視点に立った資料であったため、初めて見る人でもすぐに理解できる内容の資料を作成するように指導した。グラフの表示方法や文言など細かいところまで修正を求めた。修正は3回に及んだが、最後は大変見やすいものになった。
アドバイスのおかげで、苦戦していた販売先との価格交渉が、当社の要求通りに叶えることができました。ありがとうございました。今回のアドバイスを通じて、価格交渉は口頭だけでなく、文書でも要請をしていくことを学びました。こうした経験を通じて、今後は自分たちだけでやっていける自信につながりました。大変感謝します。