沖縄の伝統的な素材夜光貝の魅力をジュエリーに込めて発信
宝石店を営む、両親の力になりたい。 夜光貝という沖縄ならではの素材と出会い、魅せられた相談者。 課題を乗り越え、夜光貝ジュエリーとして、その魅力を発信していく。
代表者:當眞 清乃(とうま きよの)
住 所:沖縄県うるま市字喜仲4-9-4
沖縄県よろず支援拠点
チーフコーディネーター
ご両親の営む宝石店の引継ぎを見据えて、今後どのようにしたら宝石店は生き残ることができるかを考えるようになった當眞さん。
試行錯誤を繰り返す中で、沖縄に古くから伝わる夜光貝という素材に出会う。「見ているだけで引き込まれるだけでなく、夜光貝が沖縄の素材だということを知って、これは面白いなと思った」と語る當眞さん。
まずは多くの人に夜光貝の魅力を知ってもらうために、ご両親の営む宝石店とは別に、観光地でもある北谷町にジュエリーショップをオープンした。
しかし、比較的若い年齢層が集まる北谷町で、およそ2万円前後の価格帯の夜光貝ジュエリーは高すぎた。不安定な売上げが続き、オープンから8ヶ月後には、資金の底が見え始めてしまう。
そんな折、売上拡大のために、観光客が多く訪れる那覇の国際通りに移転し、さらに資金を調達し商品を仕入れるようメーカーから勧められ迷っていた。
「進むべきか立ち止まるべきか、誰にも相談できず、眠れない日々が続きました」と当時を振り返る。途方に暮れていた當眞さんが、商工会に助言を求めたところ、当拠点を紹介されて相談に訪れた。
「大変お若い方なのに、暗く、思いつめた様子だった」。相談に対応した当拠点のチーフコーディネーター上地さんとコーディネーターの豊嶋さんは、相談時の當眞さんの様子をそう振り返る。そこから、およそ3時間にわたり、商品の特徴や値段、また顧客層の分析、販促方法、商品に対する想いなどをひとつひとつ丁寧に確認していった。
ヒアリングの中から、夜光貝を価値の高いジュエリーとしてブランド化したいという想い、また、お父様の営む宝石店の行く末を心配し、事業の引継ぎを考える中で、自分の事業をなんとか軌道に乗せたいという想いを汲み取る。
その上で、同じものは二つとできない夜光貝ジュエリーは、オンリーワンの高付加価値商品であり、大きな強みだと判断。経営を立て直し、いかに夜光貝ジュエリーの価値を高めるかが課題となった。
當眞さんが最も思い悩んでいた追加の借入と国際通りへの出店に関しては、経営をさらに圧迫しかねないため、上地さんの知り合いの弁護士の力も借りながら、その場で「借入と出店はやめましょう」と提案。當眞さんも納得をした上で、借入をせずに、できることを順序立てて進めるという方針で支援がスタートした。
まず、困窮している経営を立て直すべく、賃料がかかる上、顧客層とのミスマッチが起きている北谷町から実家の宝石店への移転と、メーカーに頼らない事業展開を提案した。
当初は、北谷町よりも人の少ない実家の店への移転に不安を持っていた當眞さんだったが、北谷町の集客が厳しいことから、実家の宝石店への移転を決意。さらに夜光貝ジュエリーの制作にも着手した。
「夜光貝の意味合いがしっかりと伝わるものを作ろう」と、當眞さん自らの手で制作することで商品デザインのコンセプトが明確になった。
また、夜光貝ジュエリーの価値を高める取組みとして、上地さんは「夜光貝については、何を聞かれても答えられる夜光貝博士になろう」と當眞さんにアドバイス。同時期に当拠点を活用していた宮古島の有名観光レジャー施設を紹介した。この施設では夜光貝の加工や体験制作も行っており、夜光貝の知識を深めることで、加工方法や新商品のアイディアを学ぶ上で良い関係が築けるはずだと考えたのだ。
こういった取組みの中で得た知識を、SNSやHPで発信することも提案した。
営業戦略としては、高付加価値商品として売っていくのに適した、高級リゾートホテルでの販売を提案。當眞さんは持ち前の行動力を活かし、知人のつてで高級リゾートホテルと交渉の機会を得ることができた。
実家の宝石店への移転や、自身で夜光貝ジュエリーの制作を手がけるようになったことで経費を大幅にカットすることができ、経営状況の安定化につながった。當眞さんは「今は売上げを商品のための設備投資に割くこともできている」と胸をなでおろす。
交渉を続けていた高級リゾートホテルでも、オーナーに夜光貝ジュエリーと當眞さんの人柄が認められ販売を開始することになった。
また、知人のつながりで、小学校で行われた夜光貝ジュエリー制作体験会の講師を務め、それが新聞記事に取り上げられた。また、地元テレビの取材も複数受けるなど、多くの人に夜光貝ジュエリーについて情報発信する機会も増えてきている。
上地さんは「自分の技術と知識を伝えることが、収入につながる。これが當眞さんの新たなビジネスモデル」だと分析した。
當眞さんは当拠点の支援に対して「周りに迷惑をかけないという考えが先行してしまい、誰にも話せない中で、よろず支援拠点に相談できたことは救いでした。お金がかからない方法で一緒にやろうと言ってもらえたのが安心だった」と語った。
上地さんは「一つの会社で、課題が単純にこれだけというケースはない」という。さまざまな課題を持った経営者の方に寄り添い、ワンストップで支援することこそ、今多くの中小企業に求められていることなのではないだろうか。